俳句エッセイ T


「夜半翁容貌魁偉紅冬瓜」 中山 一路

「容貌魁偉」といえば、なぜか梶井基次郎を思ってしまう。珠玉の短編作品を残して、昭和七年三十一歳で夭折した作家だ。死の前年に写された写真には、籐椅子に腰掛け、やや斜め前を向く梶井の姿が残されている。その面立ちは、「縄文顔」とでもいえばよいのか、えらが張り、顎のしっかりした、なかなか立派な顔つきだ。ここで、「オコゼ」などを引き合いにだすと、おや又か、と顰蹙を買いそうだが、しかし、「オコゼ」の魁偉な面付きとその身の上品な味わいは、捨てがたい取り合わせと言えよう。「視ること、それはもうなにかなのだ。自分の魂の一部分或は全部がそれに乗り移ることなのだ」(『ある心の風景』より)と書いた青年は、書くことによって繊細な感性と詩的で豊かな魂を、多いとは言えない作品に封印したのである。ところで、句作品中の「夜半翁」とは、俳人後藤夜半氏のこと。

*作品は『俳句年鑑』1994年版より引用