俳句エッセイ U
「白障子へだてて疑心暗鬼かな 長田 等」
「板子一枚下は地獄」という漁師さんの言葉がありますが、白障子一枚向こうは疑惑をかきたてる闇の世界、という事もあるのでしょうか。ところで、「壁に耳あり、障子に目あり」という諺があって、これは秘密の漏洩を戒め、細心の注意を促す言葉ですが、壁に耳をあて、障子の破れ目から内を覗き、秘密を盗みだそうとする者を想定しての言葉です。しかし、疑心暗鬼にかられた人は、時には思いあまって「壁の耳、障子の目」という行動に出てしまうこともありそうです。さて、妖怪漫画で有名な水木しげる氏の妖怪画の中に、「目目連(もくもくれん)」という妖怪の絵があります。それは、障子の升目ごとに目玉が一つくっついた化け物の絵です。妖怪が、人間の無意識の形象化とすれば、障子一面のこの目玉は、あるいは、秘密漏洩を恐れる者の恐怖心の表れか、疑心暗鬼を晴らしたい者の願望の表出か、さて、いづれなのでしょうか。
*作品は『俳句年鑑』1994年版より引用