岩城 久治

   京事(1)

門毎の篝火祭囃すべし
打ち替る姥が火祭太鼓かな
よじれちぎれ鞍馬火祭炎風
火祭の燻り松明天狗出よ
火祭の帰るさは沿ふ貴船川

   て考

天地(あめつち)の相俟つて色なき風ぞ
秋渇き延(ひ)いては余りてもなどか
群謀す全く以て菊人形
句碑建つ日相構へての紅葉かな
置酒歓語どびろく枉げて飲めといふ


清水 貴久彦

   骨 折

鎖骨とはよく折れるもの休暇明
落鮎や癒しの曲が売れに売れ
水引の紅かさぶたの指に巻く
ケーキ屋の看板娘秋高し
稲妻を並び仰ぐや喫煙者
野分あと何が狙ひと問はれけり
保健婦の案内で霧の三之町
秋夕焼口ゆがめたる招き猫
半呼吸おいて潜れりかいつぶり
レントゲン見せられている夜寒かな


すずき みのる

    野 分

野分だつ背を見せず波寄せ来ては
秋川の波浪の下に滑り込む
野分なら電線のすぐ上にゐる
腹式呼吸で野分の中を歩むならば
杜中が野分に憑かれゐるさまに
闇へ蹴る風の落とせし花梨の実
濁流は暗渠に吸われ秋の土
ベランダは舳先のごとし野分雲
長脛彦走るよ野分名残の浜
遠景は潮煙して野分晴