岩城 久治

 京 事(2)
   亀岡別院
影をなすものなし寒天干場かな
晒し台寒天小屋も斜面(なぞへ)建ち
晒し場に糸寒天を均しをり
ちぎれ寒天晒し簀に挟まれり
屑寒天簀台の下に落ち縮れ
  雛 考
雛の送りを人雛の修しけり
この期(ご)この上(かみ)流れつつ雛あらむ
雛荒し石合戦のつづきに来
挨拶をろくすつぽせず雛荒し
手応への芳からず雛荒し


 清水貴久彦

 潰 瘍
          
潰瘍が胃と腸そして未だ寒
心臓のドンタン今朝は雪催
母乗せて救急車来る寒雀
鴨除けて五位鷺が食ふ浅ましく
餅花の触る狸の像の鼻
雪掻くや電気メーターよく回る
雪乗せて竹山側に曲りけり
雪の田に鴉バサリ人ほおかむり
暖簾の紺屋号の文字の白節分

退職の理由いろいろ変へて立春


 すずき みのる

 鳥 類
          
祝歌(ほぎうた)と水鳥の声京の川
纓(えい)守るやアルビノにして寒鴉
右に振れ左に振れて鴨の陣
妊婦帯して散策すゆりかもめ
冬川の流すや鷺の放(ま)るものを
跳ね歩きして晩景の寒雀
水の底にも京はありと鴨倒立
水流れつつ衰耗のゆりかもめ
寒の鵜の浮き来ては押し流さるる
ゆりかもめ舞ひ全天は川のごと