岩城 久治
一考
一木の秋初風のさやぎかな
一和(いつか)して秋分の日を集ひをり
一の才(ざえ)とは何ならむ月今宵
一家建ち菊の枕を当てにけり
一一(いちいち)に声かけ給ふ菊日和
京事(四)
静原
おーくれ送れ声のさびしき虫流し
虫篝竹のはじけて山響(とよ)む
小山郷
雨をあやぶみ六斎の幕張りす
信心や六斎の獅子倒立す
一伍一什六斎をあやまたず
清水貴久彦
盲(めしひ)
盲の子滝の前にて笑ひけり
次々に子らの越す柵雲の峰
ミンミンや奥ほど痒き耳の穴
法師蝉ホースねじれて水止まる
秋風や英語俳句の通りやんせ
プリズム(二)
比良坂に火の鳥見たり熱帯夜
寒の沼言葉もつれて沈みけり
独房に人そしり食ふ林檎かな
急かされて起き上がりたる春の山
国会の真正面へ寒鴉
すずき みのる
音 楽
虎杖やさすがはヴォイストレーナー
低音より弾く開放弦水中花
冷房の真中グランドピアノかな
一斉に口開け朱夏の合唱団
指揮者今饗宴にゐて汗しとど
チューバ奏者丸ごとの夏抱え込み
夜の秋母の部屋よりハーモニカ
夏果てやピッコロ走る走る走る
ティンパニの調音頬に爽気触れ
少年にセロ十月の音楽室