岩城　久治

　雑　考

並泳し縦泳し鴨且つ散泳
あらたまの家声(かせい)決して貶めず
着衣始母じやがたたみくれしもの
独楽の紐ちぎらむばかり初喧嘩
春の雪受けて八つ手の葉なりけり
　
　京　事（五）

家元に御題菓子・香捧げけり
御題菓子ふつくらおかめ笑みゐたり
御題香羽子板型に抜きゐたる
御題香包みし紙に句を書けり
軸ものを読み下したる御題香

清水貴久彦

　リハビリ

リハビリの杖つく音や寒卵
半壊の四肢の分けたる寒気かな
咳潜む肩甲骨の裏辺り
ウォークマンくしゃくしゃの顔雪に向け
落ちのなき身の上話雪積る

　プリズム（三）

国土凍つ志士それぞれの発火点
退路断つ咳の男の背が軋む
父の死も母の記憶の外歳暮
秋風に肋をさらす罰のあり
灯明を囲む襖の達磨かな

すずき　みのる

　車　窓

ビルに腹見せジャンボ機や十二月
海底の丸みが山に暖房車
鹿垣の枯れを囲ひてゐたりけり
スカートの下にトレパン雪の駅
雪増やしつつ沿線の町々は
雪塊を車底に特急進発す
雪煙の渦トンネルの入り口は
車掌来る左右の車窓に深雪谷
雪嶺や宙に断ち切れ高架道
雪の畑一所水気の色見えて