岩城 久治
花 考
リラ冷えや鬣揺るる金属音
一弁の剥がれたる以後鬱金香
日の射せば影のいきなり踊子草
置き去りにされし姿見杜若
この花をよくぞ猿猴草と呼ぶ
京 事(六)
火渡りの風起こりたる春落葉
春泥を来て火渡りの列に蹤く
信薄く火渡りに蹤き春の蝉
龍天に登る思ひの火渡りす
佐保姫の喪裾火の付き渡り終ふ
清水 貴久彦
血 流
血流を励まし伸びて春隣
手拍子の中に蒲公英ギタリスト
芋菓子の胃にをさまれる日永かな
子も父も桜の下に停めたがる
討死といふ名の誉れ花篝
プリズム(四)
渓谷に飲み込まれたる秋の声
月の夜やあまつのりとに波の音
ほの白き花の中なる二人かな
粉飾の身を精算の除夕かな
足音を雪の山路に捨てにけり
すずき みのる
紫 煙
自転車の轍のさまに薄氷
なごり雪なり信号は赤と青
春愁一灯ともる巨大ビル
涅槃図に釈迦嘆かざる御一人
片方の穴から紫煙万愚節
引 用
子子子子子子(ねこのこのこねこ)てふ戯言このこ食ぶ
なごり雪日の照りながらと口遊み
つちふるや虚実皮膜の虚の側に
春は曙ケトルの笛の鳴りそむる
亀鳴けるなり言葉言葉言葉とぞ