影踏み (その三、栗木京子)
夜道ゆく君と手と手が触れ合ふたび我は清くも醜くもなる 栗木京子
朧夜や君好きになり鬼となる 清水貴久彦
天敵をもたぬ妻たち昼下りの茶房に語る舌かわくまで 京子
夏きざす不敵の妻の寄る茶房 貴久彦
せつなしとミスター・スリム喫(す)ふ真昼夫は働き子は学びをり 京子
感謝祭男のタバコ喫つてみる 貴久彦
ひいやりと青漲れる大空に弟妹(おとといもと)の虹ふたつ見ゆ 京子
弟妹のごとく並べり冬の虹 貴久彦
ジャンプ台を跳び立ちし影転生の輝きに充ち雪に着地す 京子
スキージャンプ輪廻の光得て着地 貴久彦
観覧車回れよ回れ想ひ出は君には一日(ひとひ)我には一生(ひとよ) 京子
観覧車君との春日とこしへに 貴久彦
鶏卵を割りて五月の陽のもとへ死をひとつづつ流し出したり 京子
鶏卵を割れば死一つ聖五月 貴久彦
をり鶴のうなじこきりと折り曲げて風すきとほる窓辺にとばす 京子
風澄むや折鶴が飛ぶ首曲げて 貴久彦
草むらにハイヒール脱ぎ捨てられて雨水(うすい)の碧(あお)き宇宙たまれり 京子
碧き水ため葭原のハイヒール 貴久彦
負け馬に乗り換へほくほく往く生もたのしからむがわれは勝ちたし 京子
ダービーや負けるのもよし勝ちがなほ 貴久彦
短歌は、小高賢編著「現代短歌の鑑賞一○一」(新書館刊)より任意に選んだ。