歌仙 『冬麗の』の巻

オ  冬麗の賀茂別雷神社かな       大石朴花女
    列なして買ふにほふ焼餅         岩城久治
   校長が双子姉妹に声かけて      清水貴久彦
    仕事仕舞ひの電源を切る         鈴木 稔
   月光を鋭く返す腕時計               治
    高座を下りて虫の音を聞く            女

ウ  紅燈のちまたに帰る秋遍路            稔
    吊広告に介護用品                 彦
   人泊めて枕の足らぬ杣が家            女
    やらずの雨の降り出したる            治
   アルバムを覗き見るとき髪の触れ         彦
    飛び越えて来よその白線を            稔
   大盃の涼しき月を廻し飲む             女
    襲名披露の宴の酣                治
   株券を束ねてしまふ桐の箱            彦
    屋敷に引きて里山の水              稔
   蔵元の売りに出さるる花盛             治
    赤倉にけふ春霞立つ                女

ナオ 百千鳥背番号なきユニフォーム          稔
    手当増やせと叫ぶ集会              彦
   幌張つてメロンパン売る兜町            女
    風荒ければ新聞紙飛ぶ              治
   マフラーのままで道聞く幾度も            彦
    昔鯨で賑ひし町                   稔
   花札に醤油染ある裏表               治
    いもうとの名を誌すひそかに           女
   泉へと沈めて切りし指と指              稔
    警察手帳見せて一礼                彦
   昼の月都心に住みて寡婦なる           稔
    大きな声で「秋です」の歌             治

ナウ その人のその後杳たる菊膾            女
    九時のニュースで実名が出る           彦
   申告をもらしてゐたる会社某            治
    地の事は地に黄蝶ひらひら            稔
   老ふたりほーつと言ひて花仰ぐ       岩城尋子
    松露を掻きしことのはるけし            女

                 於京都市上賀茂
           平成十七年一月二十九日首尾