歌仙『風の香や』の巻

 オ 風の香や社の杜の水の音         山田喜代春       
    盃事に出でし焼酎               岩城久治  
   四五人に早苗饗の茣蓙広すぎて      大石朴花女    
    鶏を追ひやる家の三毛猫         清水貴久彦 
   山の月産屋に漏るるほの明り         鈴木 稔  
    夜学続けて量子論成る                春  

 ウ 菊日和園遊会の前列に                治  
    よろこびて鳴るポシェットの鈴            女
   ホームにて電車二本をやり過ごし           彦
    携帯で撮るお目当ての彼               稔
   襟立てて渡哲也に似し男                治  
    空手の稽古浜の月冴え                春  
   貝殻を拾ひ集めて子に与ふ               彦
    蓮如道ゆく父母の恩                  女
   ロボットが並んで踊る日曜日              稔
    ヒコーキ雲の一回転する               春
   花軍太郎次郎の崖滑り                 女  
    雁瘡癒ゆるまでの辛抱                治  

ナオ ここだけの話にしてと春炬燵             稔  
    株高騰の折に乗じて                  彦
   三代目税金のがれに雑誌出す             治
    推理作家の人を殺せり                春
   停電の冷蔵庫より赤ワイン               彦  
    ボディブローの痕を裸身に               女  
   北欧の古城の壁に押しつけて              春
    拘束の具に水を含ます                 稔
   銀盆に男の首を載せて舞ひ               女
    ノートルダムに砂煙立つ                治
   投げ銭をバケツに受けし月明り             春   
    おみくじ結ぶ横に蓑虫                  彦  

ナウ 柵越えの二百二十日のホームラン          稔  
    そんな自慢は聞きたくもなし              治
   あなたにはあなたの流儀香をたく            女
    落款のなき床の間の軸                 彦
   花時の海老の皮むく日暮れ時          岩城尋子   
    遠目に白き水口の幣                  稔  

                 於京都市上賀茂
            平成十七年五月十四日首尾