歌仙 『桔梗』の巻


 オ 約束の桔梗のころとなりにけり       樋口由紀子
    この初月にお待ち申せし           岩城久治  
   秋の蜘蛛おのが抜け殻網に掛けて   すずきみのる
    古新聞をしまふ物置            清水貴久彦 
   真昼間を児が跼みゐる浮人形             治 
    太い胡瓜を噛るがぶがぶ               紀  

 ウ 親指に切り傷のある末娘                彦  
    恋に色めく大家族なる                 る
   まんなかは高らかに鳴るマンドリン          紀
    草原に塔見えて風吹く                 治
   拉麺もメニューの一つディスカバリー          る  
    大統領の好きな番組                  彦  
   冬の月靖国神社の上に出て              紀
    鼬いきなり立ちあがりたり               治
   煙硝の匂ひの残る檻の中                彦
    春手袋はモスグリーンに                紀
   友達として五十年花の旅                る
    序文を記す今日は曲水                治

ナオ 大賞を僅差で逃し山遊び               彦
    地に突き刺さる投擲の槍               る
   履歴書に除籍の痕が幾度も              治
    美空ひばりの慰めの唄                紀
   夏場所の桝席に置く引出物               る  
    団扇の骨があちこちで折れ              彦  
   先生にねだりをりたる髪飾り               紀
    大和大路を下ル西入ル                治
   電燈を消し枕明りをつけむ               る
    河童出てくるおとぎ話よ                紀
   本堂の木魚を照らす後の月               彦   
    新酒を飲みて酔ひつぶれをり             治  

ナウ 検診で尿に潜血そぞろ寒                る
    破れたドアを直すおとうと                彦
   山頂のみやげもの屋が雨になり             紀
    顔のまはりに春の蚊の来て              治
   花の雲厨事にて立ち疲れ             岩城尋子   
    縁の下から仔猫鳴く声                  る 

 
   
               於京都市上賀茂
              平成十七年九月四日首尾