歌仙『磨かれて』の巻

 オ 磨かれて京の蕪となりにけり        大石朴花女
    隙間雪受け生ひ育ちたる           岩城久治
   ビー玉に赤の大小交りゐて         清水貴久彦
    路地から路地へオート三輪       すずきみのる
   月白の嶺の裏より犬貰ひ                治
    茸狩によき朋を選らばむ               女

 ウ 火祭の旅宿を至急予約せよ              る
    パスワードには君の名前を              彦
   情死せし遺髪の脂じめりして              女
    新聞記事の見出し七段                治
   大引に激震走る兜町                   彦
    ふと目覚むればサンドストーム            る
   母刀自の月の霜かと問ひたまひ            女
    河太郎の声と聞きたがふなり             治
   光芒の闇に吸はるる富士樹海             る
    信書に青き鳥のことなど                女
   劇場の二階の窓に花の影                彦
    阿国を囃す音の春宵                  治

ナオ やどかりを手の平に乗せ理科教師          彦
    骨標本に余る一片                   る
   ぶらさげて持ち帰りたる軽きもの            治
    亀卜に宜しと叩く巫                   女
   小説のモデルなりしを懐手               る
    咳をしながら渡る吊橋                  彦
   母の恋おそろし父の恋かなし              女
    おづおづと言ふうぶな少年               治
   印籠の葵の紋のきらきらと                彦
    テレビ見過ぎて目を悪くする              治
   昼の月力士廃業したばかり               る
    贔屓筋より届く新蕎麦                 女

ナウ 地芝居の一人酩酊してをりぬ             る
    ヒューズが切れて消える照明             彦
   アカペラの霊歌の湧ける貨物駅            女
    後生大事に抱く文言                  治
   火脹をかばひて打てる花軍          岩城尋子
    ほてりとどめむ春の夜の夢          
    る


   於京都市上賀茂
   平成十八年一月二十一日首尾