歌仙『二人静』の巻

 オ 二人静がうがうと山響みけり   すずきみのる
    おたまじやくしを掬ふ幼子      岩城久治
   公園に巣箱次々掛けられて    清水貴久彦
    乗り捨ててある青き自転車          る
   三日月は高層ビルにひつかかり 樋口由紀子
    美術の秋のいまや酣       大石朴花女

 ウ 爽かに山手線にメール受け         る
    落し物にも交じる教科書          彦
   錆びはじむ左利き用裁ち鋏         治
    帛紗の褄がどうにも合はぬ        女
   胸のうち金平糖が転がつて         由
    岬端に来て叫ぶ新刑事(デカ)      治
   丸文字の手帳を照らす夏の月       彦
    キャベツ畑をすり抜けていく        由
   昏々と子規は墨汁匂はせて         女
    賽銭箱に入れる小切手          彦
   ハープかき鳴らして花のコンサート     治
    蘭(あららぎ)といふ春惜しむ酒      女

ナオ 蜃気楼押せば出てくる欧羅巴       由
    あしたの空へ下駄放りあぐ        治
   ベランダの洗濯物に糞がつき        彦
    ガムテープなら抽き出しの奥       由
   雪女郎裾に小さき継ぎ当てて        女
    老眼鏡のくもる寒の夜           彦
   取り皿の渦美しき釉(うわぐすり)      治
    披露宴より盗む妹              女
   逢ふまでは背中半分いなつるび      由
    山の風吹き蛇穴に入る          治
   赤い羽根さして僧侶の買ふ豆腐      彦
    夜更けて戻る大原野の月         女

ナウ ため池に映つた顔を掬い上げ       由
    樹海の中に探る西方            彦
   6Bの鉛筆の稜(かど)とれてなし      治
    さよならを言ふ鸚鵡苛めむ         女
   花道に清姫消ゆる春灯       岩城尋子
    都踊の君を見に行く            る


                 於京都市上賀茂
           平成十八年四月二十二日首尾