みのる俳句集 22

 「火祭 38句」

跨ぐなと言われ火祭の松明を
衛士の火の団扇使ひも二十年
電線にたゆとふ火祭の火の粉
宙に長き尾篝火の火の乱舞
さいれいさいりょ子の声の近づきて

思はざる辺より火の粉や大松明
去年よりは寒からずよと火の祭
秋の闇一塊の煙流れゆく
松明の点火の番を待ちをりぬ
火の色の澄みきて火祭の半ば

神人として松明を跨ぎゆく
松明の注連外さなん火つけなん
焔の色が照らして通る火の祭
さいれいさいりょ声交叉しぬ行き交ひぬ
誇らしや松明の火に就き行きて

火祭の氏子襷を受け取りぬ
衛士の火を掻き立て大松明に移す
土橋の一所抜け落ち火の祭
鞍馬火祭綱方の一少女
火祭を控え仏前に火を灯す

火祭の客の無人を戒めぬ
火祭の子に就職の話聞く
地方紙に連載五日火の祭
医者曰く火祭の酒控えよと
秋の闇捲り捲りて焔立つ

誇らかに火祭の火に慫きゆきぬ
何もかも忘れてゐたる火の祭
衛士の火がロープを融かす火の祭
鉾来る秋冷に鈴の音高く
玄関先に大松明と燗の酒

一升瓶提げ火祭の客来る
目の前に締め込みの尻鯖の寿司
規制線火祭の客押しやりぬ
火祭や喰らひて腹に溜まるもの
火祭の松明に水頭に水

火祭の松明水を滴らせ
上賀茂警察火祭に斎かに
秋の闇より三本の鉾の脚