みのる俳句集6

鬼灯や居間の奥処に遺影の犬
曼珠沙華背後に皇宮警備員
夜の御所より銀杏の蒸るる香
地震過ぎて地の茫々と十三夜
蚯蚓鳴く骨標本を見て居れば

賀茂川に幾架の橋や神の留守
抱え来る萩はデイスプレイ用のもの
家裏に闇押し迫る鞍馬祭 
廃棄印ある本を乞ふ秋の暮
古酒や襟足といふ一斜面

舟溜まりまでの水路や秋の雨
冬近し古地図に天眼鏡添えて
初冬を家郷に過ごす薬包紙
のたうつ冬浪岩礁に傷みては
どつどどうとは海原を渡る北風

凍て雲の輝き水の面にもあり
潜き浮く常に一羽やかいつぶり
日を返す温室まるで宝箱
陽曝しの二股三股大根よ
黒々と石碑に亀裂鎌鼬

冬深き旧居の井戸に何か音
水洟や男の寿命さらに延び
枯木山広がり駅の濡れトイレ
霜柱樹冠に朝の来てゐたる