みのる俳句集8

 「風」

合歓の花犬にしげしげ眺められ
夏台風先触れのさらさら雨降りて
植裁のしきりに放つ暑熱かな
落ち蝉を風が廻してをりにけり
風駈け抜けて夏果のスキー場

 「空蝉」

空蝉に魂の一部は留まりて
背開きはいづれ江戸風空蝉も
やよ空蝉は風船ならず慎めよ
双手にて割る空蝉に空気の香
空蝉や無声シネマを映す壁

 「ぶな林」

本を隠して薫風のカーテンが
竪穴住居へ人の入り行く子供の日
老鶯や石ひとつづつ置きて道
ブナ林に目を凝らしをり捕虫網
新樹光ぶな林の底歩みては

「喩」

恋の猫一瞥のその翁顔
薫風や木組み坐りの大き犬
夏川の匂ひを街の喩となして
夏の湖映して等身大の空
今日もかも一日を梅雨の胎内に