みのる俳句集9
野 分
野分だつ背を見せず波寄せ来ては
秋川の波浪の下に滑り込む
野分なら電線のすぐ上にゐる
腹式呼吸で野分の中を歩むならば
杜中が野分に憑かれゐるさまに
闇へ蹴る風の落とせし花梨の実
濁流は暗渠に吸われ秋の土
ベランダは舳先のごとし野分雲
長脛彦走るよ野分名残の浜
遠景は潮煙して野分晴
鳥 類
祝歌(ほぎうた)と水鳥の声京の川
纓(えい)守るやアルビノにして寒鴉
右に振れ左に振れて鴨の陣
妊婦帯して散策すゆりかもめ
冬川の流すや鷺の放(ま)るものを
跳ね歩きして晩景の寒雀
水の底にも京はありと鴨倒立
水流れつつ衰耗のゆりかもめ
寒の鵜の浮き来ては押し流さるる
ゆりかもめ舞ひ全天は川のごと