參の人々(その6、寺嶋艶子さん) 

さきがけて銀行ロビーの雛展
尼御所の耐火耐震さへづれり
芽柳や高架のひびく廓口
漆黒の猫の見てゐる春田打
石置いて踏んで瀬渡る山桜
ウオークマンきく子もをりぬ花筵
ゆきずりに野外ジャズきく花吹雪
花疲れするにはいまだ猿ヶ辻
咲き誇る薄墨桜雨ながら
川舟へ仕出し運べる花の昼
蝌蚪に足出でて鳳凰堂くづる
蔵茶房出でてまぶしき麦の秋
二階より二階へ会釈リラの風
レストランに揚羽舞ひ込む牧の昼
竹とんぼ風にのつたる麦日和
医通ひに近径ありし半夏生
雷はげし籠りゐてなほ逃げごこち
雨音の立夏や午前零時なる
旅好きは母ゆづりかも吹流し
駐車場に川舟あげて梅雨出水
散布剤かけし繁りの夜を匂ひ
昼顔や水路終着櫂しづく
みどりさす漱石の間や湯屋二階
昼間より浴衣に替へて道後の湯
夕薄暑からくり時計の鉾まはる
遊び子を待つのみにゐて浜日傘
水平線ゆらりとしたり浮輪の子
部屋ごとに岳の名うれし避暑の宿
駅前のKOBANの文字避暑期去る
夏萩やねねの道てふ石畳