『参』作品集より 11


 
末黒野に入りて靴底あたたかし   矢田部美幸 池普請魚のにほひの風わたる    神原 廣子
雪道をゆっくり帰る退職日     新井比佐代 椋枯れて阿漕に鴉高鳴ける     川勝 好女
空深く根をおろすかに枯れ木立   鈴木  稔 明智越え渡すしぐれの丸太橋    辻  滋子
軒先の柿をぬらして日照雨過ぐ   林  節代 おもちや屋の麒麟這ひ出す師走かな 林  美智子
この雲の下はシベリヤ雪気配    平田 幸子 鯉揚を見てゐて金魚もらひけり   松田 うた
内科歯科五丁のあひだ時雨をり   向井富美子 西郷像よかあんばいの菊袴     森  初代
女名の海苔籠乾く浜日和      山添 涼子 豆稲架を組むにひと日を尽くしけり 山本 清子
鳥翔けて日差しきらめく霧氷林   山本 康夫 畏みて王の木乃伊や冬館      吉村千津子
大観の富士の絵仰ぐ建国日     伊藤 京子 凡の日をふりむかず来て年送る   井上嘉津子
ぎんなんを拾ふ夫婦となりにけり  太田  稔 校長を盾に全校雪合戦       大屋 久子
ベランダにシクラメン揺れ日曜日  岡村 美江 対岸や野焼きを廻る消防車     奥川 正子
駅吹雪く向ひ側でも立喰す     奥村木久枝 初天神防火のびらのななめ貼り   片山寿美子
冬うらら戯画の蛙の双手上げ    佐名木京子 宝くじ肉屋でもらふ十二月     曽根 はる