『参』作品集より 12


 
頬被りして乗車券売りゐたる    那須 江堂 あとがきを読みて本買ふ小六月   西田志津子
氷面鏡禽の走る影ばかり      細井 玲子 同室の一人退院春隣        渡辺真利子
ど忘れを笑ひ流して日向ぼこ    浅田の婦代 カトレアの温室を出て服匂ふ    生澤 漾子
綾に降る雪を見上げて夫送る    大伴美佐子 窓下にライトアップの雪椿     大橋美寿江
春寒しへこみ一つの長枕      小野 正子 おん祭り娘と腕を組みて見る    栗山 常子
うす影をまとひふくらむ寒雀    樋口 勝之 白梅に息ととのへて向ひけり    本庄 有子
山笑ふ里に余命の置きどころ    宮川 一郎 参道の椿香りを放ちをり      山本みや子
縛られて白菜畝に立並ぶ      吉田トミ子 折紙の動物園や冬深く       塚越 淳子
火に投げしライターはじく厄まゐり 谷口万亀子 雪を被て白山浮かぶ翁みち     梅木  篤
迂回路は山茶花の紅咲き初むる   伊藤 晶子 寝台に豆そつと撒きひとり住む   糸井 光子
降りしきる雪降りしきる医家の道  渡辺 公子 遺影置くピアノそのまま室の花   森 千代子
王陵やコーリャブルーの冬晴に   村田 清子 通し矢の的を破りて成人す貼り   人見 洋子
着ぶくれの七人席や発車ベル    平田 博子 木枯しや酩酊の夫着せ替ふる    橋本 孝子