『参』作品集より 13


 
鳥声のかくるる遊び日脚伸ぶ   飯島喜代子 消印はオーストラリア雨水なり  岩田 房江
卒業子軽く手を上げ駅を発つ   太田  稔 野良猫の瞬時見上ぐる春の月   小谷 良枝
春分の国旗を掲ぐ両千家     上田埴津子 比良八講湖を鎮めの法螺合図   川津小枝子
春炬燵眼鏡の小ねぢ失せしまま  谷村 綾子 会議所の竣工移転と春は急    谷口万亀代
雛の前児は弾みつけ寝返りす   長尾 典子 手をつなぎ来し人は誰ぞ春の夢  中村 貴代
寒の窓ふきて確かむ通過駅    平田 博子 底石の見ゆる流れや落椿     樋口 勝之
午後からは予報の通り木の芽雨  松浦 恵子 石一つ置いて渡るか春の泥    前田 玲子
里宮の池のうすらひ鳥のこゑ   湊  妙子 囀りや植物園の樹々高く     村田 清子
いかるがや塔左右にみえ梅の辻  向井富美子 分校の鉄棒低し犬ふぐり     山田 順子
補聴器に風鳴る朝春浅し     矢野 昭子 摘草やすぐに倦いてる男の子   矢田 菊枝
焼却炉はるかに見えて犬ふぐり  吉行よし子 山渡る風のひとふき杉花粉    渡辺 公子
囀りを聞きゐて焦す卵焼     堀 千寿江 つるつると云う名の亭や山笑ふ  糸井 光子
黄梅や尋ねし友は耳遠く     栗山 常子 物売りの声かけられて惑ふ春   西山 康孝