あたたかや満額ちかき旅預金 向井富美子 | 春芝居八重子ゆづりの所作見えて 奥村木久枝 |
役了ふる鬼の饒舌追儺寺 辻 滋子 | 蝋燭の朱を塗り継ぎて春隣 平田 幸子 |
春埃玉突屋ある廓口 山口美栄子 | 人遠し灯を明うして追儺の夜 川勝 好女 |
春泥にペットボトルの倒れをり 吉村千津子 | 対岸の日脚伸びけり車椅子 松田 うた |
空濠の深きに草の萌え出づる 大屋 久子 | 諸子焼く近江生まれの二人かな 辻 芳郎 |
囀りにクッキー焼けて誕生日 安井 久 | 盆梅や透し欄間に枝の出て 矢田部美幸 |
春虹の端は舟屋にうすれけり 山添 涼子 | 採血に目をそらしゐて貼絵雛 山本 康夫 |
春日の子の掌に金平糖 伊藤 晶子 | 春月夜樹影ゆつくり動きをり 岡村 美江 |
閉校の机に座せり春寒し 金山藤之助 | 春寒や出口に並ぶ青電話 川上登美子 |
鬼やらい鬼に乳房のありにけり 川端 久子 | 鳥辺山霞むや人は可燃物 神原 廣子 |
啓蟄の外泊許可にイヤリング 曽根 はる | 百年の煉瓦館に梅の風 多田 淑子 |