『参』作品集より 4


 
あたたかや満額ちかき旅預金    向井富美子 春芝居八重子ゆづりの所作見えて  奥村木久枝
役了ふる鬼の饒舌追儺寺      辻  滋子 蝋燭の朱を塗り継ぎて春隣     平田 幸子
春埃玉突屋ある廓口        山口美栄子 人遠し灯を明うして追儺の夜    川勝 好女
春泥にペットボトルの倒れをり   吉村千津子 対岸の日脚伸びけり車椅子     松田 うた
空濠の深きに草の萌え出づる    大屋 久子 諸子焼く近江生まれの二人かな   辻  芳郎
囀りにクッキー焼けて誕生日    安井  久 盆梅や透し欄間に枝の出て     矢田部美幸
春虹の端は舟屋にうすれけり    山添 涼子 採血に目をそらしゐて貼絵雛    山本 康夫
春日の子の掌に金平糖       伊藤 晶子 春月夜樹影ゆつくり動きをり    岡村 美江
閉校の机に座せり春寒し      金山藤之助 春寒や出口に並ぶ青電話      川上登美子
鬼やらい鬼に乳房のありにけり   川端 久子 鳥辺山霞むや人は可燃物      神原 廣子
啓蟄の外泊許可にイヤリング    曽根 はる 百年の煉瓦館に梅の風       多田 淑子