『参』巻頭作家作品1(神原廣子)


「西海の海」8句
夢塚の野ざらし馴れに春の苔 探梅の誰か臣めく都府楼址
金印の島の黄梅海に垂れ 引鶴のこゑ玲瓏と防人碑
銅剣の切先青し遠畦火 春灯や写真白秋の泣きぼくろ
日付なきジャガタラ文や鳥雲に 踏絵島二月の木の根むき出しに
「春詠」7句
春あけぼのこんな都会に鶏のこゑ 春陽を東へ落とすミラービル
春寒く母の入れ歯を洗ひをり 大いなる母の襁褓や雛祭
蕗剥いてゐるうち機嫌なほりけり 遠き黄は連翹と知る通ひ径
清水の舞台をあるく春の鳥
「無題」5句

 
赤とんぼけふはなにしてあそぼうか 色鳥や直哉旧居に婦人部屋
燈籠踊フラッシュ叱る声とべり 背を見られをり顔見世のまねき揚
十夜粥ジーパンどかと坐りけり