その島には一つの秘儀があった。その島に生まれたものは皆十七歳になった最初の新月の夜にその儀式を受けなければならなかった。 アルとエルは双子の兄弟だった。そして彼らは今夜その儀式を受ける事になっていた。二人は儀式の導き手に選ばれたジーに連れられて村の背後に拡がる森の中へと入っていった。森の夜気はひんやりとしていて心地よく頭上を覆い尽くす木々からは揮発性のさわやかな香気が放散されていた。夜鳴鳥の声がどこからか聞こえた。松明を手にして歩いていくジーの姿がまるで燐光でも放っているようにアルとエルには見えた。二人とも今夜の儀式については周りのものから何一つ説明をうけてはいなかった。ただ先導者のジーにすべてを任せればよいとだけ言われていた。村を出るとき十七歳以上の者達に静かに見送られながら二人は秘儀の行われる場所へと向かったのだった。アルもエルも特に不安は感じなかった。ここにいる皆が今日の自分たちと同じようにすでにその儀式を経てきているのだという安心感があったからだ。 ずいぶん歩いたころ森は途切れ小さな広場へと出た。さあ、到着だ、とジーが二人の方を振り返って言った。ここが儀式の行われる場所だ、とジーは続けた。アルとエルはジーが松明で指し示す方を眺めた。そこには小さな池があった。松明の明かりを吸って池の一部がぼんやりと輝いて見えた。ジーは池のほとりへと二人を導いた。そして水面に炎をかざしながら言った。今から、儀式を始める。おまえ達二人は、ここからこの池に入り、全身を水に浸してから向こう岸に向かうのだ。そして、岸に上がって三歩歩いたところで、こちらを振り返るのだ。それだけですか、とアルが聞いた。それだけだ、とジーが答えた。他に何かしなければならないことはないのですか、とエルが聞いた。何もない、とジーは答えた。そして二人に水に入ることを促すように松明をゆっくりと左右に振った。 二人は言われた通り火影の揺れる水へと入っていった。水は温かかった。池は前に進むほどに深くなっており中央あたりではちょうど二人の頭が水中に没するほどになった。二人は先ほど言われた通り全身を水に浸し向こう岸へと傾斜を歩いていった。すぐに岸へと着いた。二人は全身から水を滴らせながら言われたとおりさらに三歩前へ歩いた。そして後ろを振り返った。星明かりの下で二人は自分たちの背後にもう一組のアルとエルが同じように全身から水を滴らせながらそこにいるのを見た。これも儀式の一部なのかと思いながら震える声でアルは言った。お前は、誰だ。おれはアルだとそれは答えた。これが儀式の結果なのかと思いながら震える声でエルは言った。お前は、誰だ。おれはエルだとそれは答えた。一瞬の沈黙が来た。もう一組のアルとエルがアルとエルのところへ歩み寄った。お前は、どこから来たのだ、とアルが言った。おれはお前から来たのだとそれは答えた。お前は、どこから来たのだ、とエルは言った。おれはお前から来たのだとそれは答えた。突然もう一組のアルとエルはアルとエルに飛びかかり二人を地面に押し倒した。そして二人の首を絞め始めた。まもなくアルとエルは動かなくなった。立ち上がったアルとエルの所へ松明を掲げ持ったジーが近づいて来た。 儀式は終わった、とジーは言った。さあ、アルとエルよ、村へ帰ろう、とジーは言った。そして二人の前に立ってもと来た方へ歩き始めた。アルとエルはジーに従ってゆっくり歩き始めた。 |