特別作品 三十句

清水 貴久彦

 ゾ ン デ           

痛覚をおだてて寐かす三ケ日
麻に丸の印あるカルテ寒に入る
皸の手に腫れ物の鳩卵大
寒の水注ぎて起す胃の腑かな
ぐづる子の脳波どこ行く春の風
燕来る予後を知りたる明方に
骨といふ骨を数へて卒業す
流刑地のごとき肺まで涅槃西風
静脈に花の香注ぐ未明かな
散る花ややがて肋骨しなるほど

春愁は蝶形骨のゆるむとき
利かん気のアキレス腱や子供の日
五月雨に腸粘膜が平伏す
打腱器を握つて祖父の夏祭
ほととぎす逆子生まれり遅れなく
父の日や聞けば聞くほど更年期
レーザーに胸さされたる日焼の子
遠雷に麻痺の小指がうづき出す
二の腕の涼しさ拭ふ酒精綿
肩凝りと病名つけて昼寝かな

肺門の衛士の位置に黄金虫
胎盤を通るささやき星祭
陣痛の奥へ奥へと小望月
胡蝶蘭ささげ上腕二頭筋
ゆつたりと膝の皿舞ふ曼珠沙華
秋燈や首を輪切りのレントゲン
実石榴やからかひて乳いぢらせる
木枯しや額こつこつ砧骨
冬蝶や癌告げて食ふ握り飯
クリスマス血管は肉貫けり