【特別作品 三十句】

すずき みのる

春 郊

水漬く葦黒々として寒明くる
春光の波板屋根に柚子腐れ
電光文字闇に断ち切れ冴返る
三寒の史跡に入るを禁じをり
星図見る真昼の紅梅見しゆゑに
紅梅に白梅の枝の差し入りぬ
中央に縄文の炉や丘芽吹く
春一番の膨らませたるごみ袋
渡河の石に亀や千鳥や入り彼岸
彼岸から此岸に届く春入日

春雨の最も濡らすトタン屋根
いさざ捕り一人が立ちて放尿す
漣をうねりに刻み春疾風
芝青みたり点々と家族連れ
石に石打ち当て春の遊びせむ
箋紙にとりどりの色春灯下
特急の引つ張つて行く花の闇
桜満開曇天も桜色
桜囲ひや京都簡易裁判所
ご自慢の犬を見せ合ふ桜かな

水面はレフ板の光八重桜
快食快眠快便まこと四月馬鹿
水門に水の厚みや四月来る
流れ去る水の記憶に仔猫かな
春の雲舟窪といふ山の窪
めまとひの一つを呑んでしまひけり
花弁欠け房(ぼう)丸見えやチユウリツプ
永日の喫煙席に落ち着かず
春満月住み処は昔伏見市と
永き日や大観覧車ひとまはり