「参」 X氏に聞く会 第四回 藤井 常世 選 
            平成十年十一月二十一日 (京都教育文化センター)
   
特選


野育ちや表裏なかりし吾亦紅
いま一度雛の面みて納めけり
みささぎへ色鳥入るをゆるさるる
磯谷好美
片山寿美子
角南とみ子筬
秀逸

父逝きし二月の通話証明書
行く雁の棹たてなほす三の峰
山百合に旅の膝折る司祭館
ルビーの瞳もてる白蛇晶子の忌
捩花のねじれは不本意かもしれず
ふるさとの天突き生ひし茸来る
刈り残る穂波守りて案山子起つ
長調も短調もゐて梅雨鴉
惟光と呼べば答ふる良夜かな
萩の寺塀の内より暮れそむる
飯島喜代子
大屋久子
岡本昌子
奥村木久枝
川端久子
佐々木志う
中貝二呂
西田志津子
林祐一
湊妙子
入選

敗荷に露もとまどふ風立ちぬ
しじみ蝶草から草へ径消ゆる
星一つ出でて神輿の帰り来ぬ
大輪の菊を咲かせて筬の音
除草剤まきて植田の風濁す
大海を知らぬ田螺のひとり言
冬薔薇やヴィーナスの腰細からず
秋冷えて翁に清き死を賜ふ
子の嘘を気付きて問はず後の月
蛍火や互ひに消えぬ翳を持ち
眠りても胡弓追ひ来る風の盆
散骨はこの風がよし夕茅花
イヤリングもうなづいて居り秋うらら
どぼんどぼんと鯉へ仏飯夕桜
海鼠ゆする母の腕に限り見ゆ
向ひ合ふ巨岩貌もつ紅葉境
洗ひ障子山の霊気に立てかけて
骨壺に冬の虹見せもの言へり
雛の前膝やはらかく坐りけり
木もれ日を追はねば死ぬる冬の蜂
猪追ひにくたびれし犬入院す
枯蓮の沼に夕日の流れけり
社家町に土橋石橋白雨かな
花野ゆく人みな羽のあるごとく
黄落の森妖精の棲むテラス
赤塚和夫
井上嘉津子
岡村美江
沖林秀子
奥村和子
小野正子
神原廣子
清水貴久彦
橋本孝子
橋本玲子
橋村静恵
林節代
林美智子
人見洋子
藤井宏泰
藤村三重子
細井玲子
松尾美穂
松田うた
宮川一郎
向井冨美子
吉田トミ子
吉村千津子
吉行よし子
渡辺真利子