みのる俳句集 『遊歩』1
掌中の珠と見てをり蕗の薹
抜きんでて背の高き子も卒業す
剥き出しの橋下を潜る余寒かな
木の芽風転勤の荷は少なくて
また一人春の闇より現はるる
桜草朝は日陰となるところ
指タクトにて始まりぬ春の歌
麗かや自分に旅のカメラ向け
春月に星の寄り添ふ夕まぐれ
深更の桜花と心連(つる)むまで
春愁やどこからも見る塔にゐて
丸刈の青年と見る初燕
恋猫や彗星の尾の中天に
紫陽花や園児の歌の大雑把
街の灯を吸ひ水母色梅雨の雲
日本は母音の国や戻り梅雨
鍔広の夏帽子にて妊産婦
のれそれを喰ふ退屈な人たちと
夏草を封じ込めたる空き地かな
蟾蜍鳴けり闇打つ棒の如き声
熊蝉や昔耳切る刑ありて
百日紅うるさし色恋沙汰もまた
油照東寺の塔の真黒に
水明かりして対岸の合歓の花
百物語闇の生き生きしてきたる