みのる俳句集 『遊歩』11
竜淵に潜み裏門閉めにけり
耳鳴りははるかなるもの露けしや
虫すだく一本の川大切に
霧が隔てて頂と山裾と
泥濘を猪のぬた場と指さしぬ
シーソーに向き合ふ仔馬天の川
足湯して一会の人と虫時雨
荒天の木つ端となりて鯔飛べり
鳥籠の止り木を拭く小六月
マスクして目の大人びてゐたるかな
ゆりかもめ太郎と命名する一羽
薄墨の水輪の芯に鴨の尻
霜月の鯉水垢を吐き出せり
山茶花や少年を厳しく叱る
背の羽根ぽろりと落とし湯冷めかな
白障子人通るとき揺れにけり
冬の水堰の切れ込みにて滾つ
鉄骨と鉄骨の間(あひ)冬の雲
握りしめたる形かな赤海鼠
森とは違ふ冬枯の京都御所
電柱を一本建てて歳用意
広げたる紙面全紙の淑気かな
元日の一族の景凪の海
春着の子歯列矯正してゐたる
寒卵生命線の手首まで
男ゐて大根に鬆の五亡星
冬滝の落ち口鳥と風通り
雪煙を巻き上げてゐる裳層かな
冬怒濤崩るる刹那透き通り
墓域一面風雪の落とす枝
皹や霜焼むかし泥温み
如月の金色の螺子落ちてゐる
節分のお化けの笑まふ祇園の夜
春近き闇と睦びて梢かな
狼も詠ひし人もはるかなり
昆虫の骸を乗せて霜柱