みのる俳句集 『遊歩』4
雪渓の畳み込まるるV字谷
男一人立たせてみたき麦の秋
路地を曲がりて再びの遠蛙
緑さすコツプにもある水の底
水着一枚大海に溶け込めず
茄子漬や隣の隣の婆のこと
短夜の夢に小鳥を殺めをり
通し鴨頭も嘴も大きくて
長茄子に思い出したる貌ありて
夭折の同級生よ夏茱萸よ
太陽に黒点兆し梅熟す
浮き草を下から眺めゐる水槽
弾幕のごと降りつのる白雨かな
夕涼や水おしろひの顔映し
世間師と話し込みたる黴の宿
一点で西日を返しガスタンク
タウンページの厚さ重さや原爆忌
盆僧のすでに仏間に坐りをり
湯を使ふ音の聞こえて魂送り
門川に苧殻火の赤掃き落とす
秋簾こつんと窓を打ちにけり
老人のにほひはやさし菊の酒
原生林背後に迫り月の寺
丹生川を股裂の岩秋出水
排便のすこやかにして子規忌かな