みのる俳句集 『遊歩』9
願ひの石鳥居に並ぶ蝉時雨
草笛を長嘯せんや壇の浦
名曲喫茶緑の蜘蛛の棲みつきて
雨の輪に囲まれゐたる通し鴨
剥き出しの鉄骨に倚る涼みかな
緑蔭を一人の友と思ひをり
人の見るものは見ざるよ蟾蜍
つくづくと裸身の色の鱚を掴む
秋の初風山より高き雲の底
対面式厨房に置く苧殻束
流灯を言霊のごと見てをりぬ
新涼や合はせ鏡の夜の車窓
フルスピードで硝子を運ぶ涼新た
少年の猿の手足通草の実
宮柱太敷きコスモス畑かな
曼珠沙華電車の底に機器蔵し
稲光して美濃紙のごとき雲
稲つるび雲の胎内照らさるる
ひよんの実を吹くマンシヨンの一部屋に
病窓に一本の木や九月尽
実柘榴の横腹の辺を日が裂きて
暗渠より清き流れや秋の鴨
秋の夜やシーツの四隅たたみ込む
草紅葉して直会の甘き酒
板の間に午睡の犬や黒葡萄