參の人々(その4、佐名京子さん)   


啓蟄の古井のぞけば谺して
ものの芽に昨日まとひしものを干す
茅屋根の千木の小さし辛夷の芽
囀やたくあん山に子の昼餉
砂利船の水尾どんとくる花筏
ベランダの柵の冷たし朝桜
尾を上げてあまへ寄る猫豆の花
この団子ここが元祖と囀れり
犬小屋の奥に目のある花の雨
大朝寝かの一粒のききしこと
遊亀の絵の童もも色あたたかし
野猿綱たぐる孤独へ青嵐
蜘蛛の囲に山風からむ藁庇
サングラス外してとくと思ひ川
吊り橋を一歩で返す青嵐
園児らの唄は空むく星祭
火の見櫓に今日の垂れ幕雪の峰
向き会ひて色の違へるソーダ水
遠雷や本屋の使ふ白はたき
香水や観劇席のくらみゆく
鯔跳ねてふる里山河ゆさぶりぬ
牧場にうまき水あり糸蜻蛉
涼しき目離れにも向けて孕み牛
反芻の牛の貫禄雲の峰
碁盤を囲む二人きりの夏座敷
木偶芝居の涙をかくす扇子はも
滝音の落差百尺身にひびき
人声のみぢかく終る滝の上
ごきぶりのその色艶に逃げられし
夏あざみ肥後守もて切り申す


 
ご主人が俳人でいらっしゃった。ときにユニークな発想が面白い。あづま人らしく歯に衣をきせずはきはきと発言。
このページは、「丹の会」の合同句集を元とし、掲載句60句から前半30句を紹介しています。