岩城久治 新句集『冬焉』より (3)
新涼の把手光れり無菌室
大きな病院での一情景。描かれてあるのは、無菌室のドアに付けられた一個の把手(とって)。薄く鈍く銀色に輝いている。多くの人の手に触れられていながらも、無機質な輝きを失っていない。それは、清潔な病院を象徴しているような一器物である。エアコンに調整され、外界の季節から切り離されたような環境の病院の中にも、季節の推移はたしかにあるようだ。作者は、それを無菌室に繋がるドアの把手に感じ取っている。そこに秋の訪れを感じ取っているのだ。